FEAに興味が湧き、Salome-Meca 最新版(2019、code_aster等一式)のインストールを試みました。
私のメイン環境のWindows 10上で動かそうとしましたが、順調には進まず、かなり苦戦しました。
そこで「どうにかしてソフトを立ち上げて、簡単な解析を終わらせる」ところまでこぎつけた方法を紹介します。
全ての環境で再現するとは限りませんが、同じような状況で詰まっている方の参考になれば幸いです。
やりたいこと
Windows 10上で、Salome-Meca 2019(code_aster等一式)が動く状態にする。
Salome-Meca とは?
Salome-Mecaはフランス電力会社(Electricite de France, EDF)が開発した、オープンソースの無料CAE統合パッケージです。応力、熱など様々な解析ができます。
公式には、Linux向けに提供されています。
Salomeは作図などの解析前・後処理を行うソフトウェアで、Code_Asterは解析を行うソルバーです。
GUI環境が用意されているので、ある程度は画面を観ながら操作を進められます。
Code_Asterの概要はWindows版のトップページが簡潔でわかりやすいです。
導入方法
Salome-Meca 2019(code_aster等一式)を手軽に動かすには、大きく3通りの方法があります。
- Windows向けに開発された移植版を使う
- Windows上の仮想環境(Ubuntu)で、Linux向けの公式版を動かす
- 物理的にLinuxOS(Ubuntu)をインストールしたPC上で、公式版を動かす
1.が私の本命の手段で、あとは予備手段です。※結局全て試す事になりました😅
目指す状態
ソフトの立ち上げから各モジュールの実行まで、致命的なエラーが出ずに完了することを目指します。
具体的な作業としては、Salome-Mecaに搭載された下記4つのモジュールを使って、簡単な解析ファイル(1次元の片持ち梁)を実行しました。
- Geometryで作図する
- Meshでメッシュを切る
- AsterStudyで境界条件を指定しごく簡単な解析を実行する
- Paravisで視覚化する。
PC環境
導入先のPC環境は、以下の通りです。
▼Windows機
- OS : Windows 10 Pro 64-bit 1903
- CPU:Core i7-7700K
- メモリ:16 GB
- グラフィックボード:NVIDIA Quadro P4000
▼仮想環境
- 上記のWindows機上でOracle VirtualBOX 6.1を利用しOSをインストール。
- インストールしたOSは、Ubuntu 20.04.1 LTS
▼物理環境(Ubuntu)
- OS : Ubuntu 20.04.1 LTS
- CPU:Core i5-3230M
- メモリ:6 GB
- グラフィックボード:オンボード
結果
結果は一長一短で、残念ながらWindows 10だと私の環境では一つの方法で動かせない事がわかりました。
一方、Ubuntuを別PCにインストールした物理環境では、特に問題なく動作しました。
作図、メッシュ | 解析(AsterStudy) | 視覚化(Paravis) | |
1. Windows版 | 〇 | × | 〇 |
2. 仮想環境(Ubuntu)+公式版 | × | 〇 | × |
3. 物理環境(Ubuntu)+公式版 | 〇 | 〇 | 〇 |
- Windows向けに開発された移植版を使う
→AsterStudyで解析が必ず異常終了してまう。 - Windows上の仮想環境(Ubuntu)で、Linux向けの公式版を使う
→作図や結果の描画ができず、致命的なエラー頻発。 - 物理的にLinuxOS(Ubuntu)をインストールしたPC上で、公式版を動かす
→一通り正常。作図、解析共に問題なし。
対処
そこで、Windows10で使う際はWindows版と仮想環境の公式版の両方を使うことにしました。役割を分担して、作図や描画はWindows版、解析計算は仮想環境で……という具合です。
もしくはWindowsで使うことは諦めて、3.の物理環境のUbuntu上で使うかのいずれかになります。
この方法で、ひとまず大きなエラーもなく作図、メッシュ作成、解析まで行うことができました。
▼ 各モジュールのスクリーンショット。クリック or タップで拡大可
さて、ではこれから下記の詳細を書いていきます。
- Widows移植版のインストール方法
- 仮想環境のUbuntu上に公式版をインストールする方法
- 物理環境のUbuntu上に公式版をインストールする方法
■ Widows版のインストール方法
まずは、Windows移植版をインストールします。
Windows版のインストール自体は、とても簡単です。Zipファイルをダウンロードして、解凍するだけです。但し圧縮状態でもファイルサイズが大きい(約1.3GB)ので、通信環境によっては時間がかかります。
ダウンロードする
下記のサイトから、Salome-Meca for Windows (prepost graphical solution+solver)のDownload Salome-Meca 2019 win64 ボタンをクリックして、ダウンロードします。
解凍する
zipファイルを解凍します。置き場所には注意して下さい。注意点は2点あります。
- 約4.5GBほどのサイズになります。置き場所の残容量に注意して下さい。
- 置き場所のパスには、半角英数時を使うこと。空白や日本語が含まれないようにして下さい。
2.について補足すると、例えば置き場所のフォルダ名に「サロメメカ」
のような日本語が使われていると、Code_asterの読み込みエラーが起きてしまいます。
必ず半角英数字を使ってください。また、空白もエラーの原因となります。
私はこれで長々と詰まってしまいました。
ソフトを立ち上げる
さあ、もうソフトを立ち上げることができます。
解凍したフォルダ直下の run_salome.bat をダブルクリックするとソフト(+コマンドプロンプト画面も)が立ち上がります。
解析はエラー。描画は正常
▼私の環境では、解析が毎回異常終了します。(正常に終わると緑色になります)
▼ 作図したりメッシュを切ったりするのは問題ありません。
対処として、仮想環境に公式版をインストールして、解析はそちらで処理することにします。
もしWindows版で全ての工程が正常に完了するならば、以下の手順は必要ありません。
■ 仮想環境に公式版をインストールする方法
ここからは、仮想環境のUbuntu上に公式版をインストールする方法です。
おおまかな手順としてはUbuntuを実行する仮想環境を作り、その後、公式サイトからsalome-meca公式版をダウンロードしてインストールしていきます。
仮想マシンにUbuntuをインストール
Windows上で別のOSを動かすには、仮想環境を作って実行します。
仮想環境では、母体となるOSをホストOS(今回の場合はWindows)、仮想的に実行するOSをゲストOSと呼んでいます。
説明を書くと長くなって大変に見えますが、大きくは下記の4工程だけです。
- 1.VirtualBOXをインストール
- 2.VirtualBOXで仮想マシンを作る
- 3.仮想マシンにUbuntuをインストール
- 4.Guest additionsを後から必ずインストール
VirtualBOXをインストール
仮想環境を作るソフトとして、VirtualBOXを使います。
VirtualBOXの導入は、ダウンロードしてインストーラーに従ってインストールするだけです。
インストールしたVirtualBOXを立ち上げると、こんな感じです。
まずはVirtualBOXで「仮想マシン」を作ります。仮想マシンは、ゲストOSをインストールする為の器です。
仮想マシン→新規 をクリックします。
▼任意のなまえ、保存場所を記入。タイプはLinux、OSはUbuntu 64bitを選択します。
あとは、ウィザードに従って仮想マシンの作成を進めていきます。
すみません、以降の手順はスクショ取り忘れてしまいました。
設定値は以下の通りです。これは私の環境での値なので、適宜決めて下さい。
- メモリーサイズ:5000 MB(※できるだけ大きく)
- ハードディスク:仮想ハードを作成する(Create a virtual hard drive now)
- ハードディスクのタイプ:VDI(Virtualbox Disk image)
- ストレージ:可変
virtualboxの設定は、詳しいサイトが沢山あるので、もしトラブったら検索してみて下さい。
▼ 御参考に、下記サイトなど簡潔でわかりやすいです。
Ubuntuをインストール
次に、ゲストOSの準備です。今回はUbuntuをインストールします。
下記の公式サイトにて、最新版をダウンロードします。拡張子は.isoです。
Virtualboxで先ほど作った仮想マシンを選択すると、「設定」というボタンが出るのでクリック。ストレージの項目を見ると、CDが空と表示されています。
それをクリックすると、更に右側にCDの絵が出ており、選択できます。クリックして、先ほどダウンロードしたisoファイルを指定します。
あとは、元の画面に戻って起動して、Ubuntuのインストーラーを進めていきます。
Guest additionsを後から必ずインストール
Ubuntuのインストールが無事済んだら、必ずGuest additionsをインストールして下さい。全画面表示や、ホストとゲストで双方向の文字のやりとりが可能になります。
▼ メニューバーのデバイス→Guest additions CDイメージの挿入をクリックして、実行(run)し、再起動すればOKです。
公式サイトからsalome-meca公式版をダウンロード
仮想環境が整ったら、Salome-meca公式版をダウンロードします。
仮想環境のUbuntu上で、ブラウザを開いて下さい。ブラウザはFirefoxがプリインストールされています。
下記の公式サイトを開き、最新版(salome_meca 2019.0.3)をダウンロードします。
1.8 GBほどのファイルで、拡張子は.tgzです。通信環境によっては時間がかかるので気長に待ってください。
必須環境をインストール
ダウンロードが済んだら、まずは公式サイトに掲載の必須条件(Prerequisites)となるライブラリーなどをインストールして、環境を整えます。
▼ 必須条件のページ
ライブラリーのダウンロードとインストールは、ターミナル(コマンドライン)で行います。
Ctrl+Alt+Tでターミナルが開きます。
公式サイトの通りの内容を一括してダウンロード、インストールするなら下記コードでいけるはずです。
sudo apt-get install gcc g++ gfortran cmake python3 python3-dev python3-numpy tk bison flex liblapack-dev libblas-dev libopenblas-dev
私の場合は、一度にやってしまうと途中でエラーが出た際に分かりづらいので、いくつか小分けにして進めました。
▼心配なら一行ずつでも良いです。
sudo apt-get install gcc
sudo apt-get install g++
sudo apt-get install gfortran
sudo apt-get install cmake
sudo apt-get install python3
sudo apt-get install python3-dev
sudo apt-get install python3-numpy
sudo apt-get install tk
sudo apt-get install bison
sudo apt-get install flex
sudo apt-get install liblapack-dev
sudo apt-get install libblas-dev
sudo apt-get install libopenblas-dev
解凍し、インストール
次に、salome-mecaのファイルを解凍しインストールします。
例えば圧縮ファイルがDownloadsに入っているなら、そこをカレントディレクトリ(以下cd)にして解凍します。
解凍
tar -xvf salome_meca-2019.0.3-1-universal.tgz
インストールを実行する
./salome_meca-2019.0.3-1-universal.run
すると、ホームディレクトリにsalome_mecaというフォルダが出来ており、その中に更に下記2つのフォルダがあるはずです。
- appli_V2019.0.3_universal
- V2019.0.3_universal
▼ターミナルで確認するなら、ls
コマンドで見られます。
いよいよ実行
そのうちのappli_V2019.0.3_universalをcdにして、以下のようにsalomeを実行すればソフトが立ち上がります。
./salome
もし実行ファイルが無かったら
私の環境では、./salome_meca-2019.0.3-1-universal.run
を実行しても、salomeファイルが無く、ソフトの立ち上げすらできない状態でした。
フォーラムを読んでいると、同じような現象がいくつか投稿されており、いくつか対処法が議論されていました。
投稿内容を試した結果、私の環境では下記の対処で立ち上げができるようになりました。
不足しているライブラリーをインストールする
sudo apt-get install libqt5concurrent5 libqt5opengl5 libqt5multimediawidgets5 net-tools libnlopt0 python2-minimal
create_appli.shを編集する
pythonのバージョンのせいで実行ファイルがうまく展開されていない可能性があるらしく、create_appli.sh
をテキストエディタで開き、文中のpythonをpython2に置換しました。
※create_appli.sh
は、V2019.0.3_universalフォルダの中にあるはずです。
置換したら上書きして、ターミナル上で./create_appli.sh
を実行します。
すると、appli_V2019.0.3_universalフォルダに”salome”というファイルが生成されていました。
それを実行 すると、ソフトが立ち上がりました。
参考になったフォーラムは以下です。
もしこの記事の対処だけでは改善されなかったら、上のフォーラムの内容を試してみて下さい。物凄く有益な情報の宝庫です。libffi.so.6のシンボリックリンクを作ったり、まだ打ち手があります。
※私はこのフォーラムを見る前に焦ってあれこれ触りすぎて、上述以外の何が決め手になったか断言できない状態です。すみません。
解析は正常。仮想環境では、描画エラー頻発
仮想環境のUbuntu上でSalome-Mecaを動かすと、描画関連の処理でエラーが出てしまいました。例えばGeometryで作図したり、メッシュを切ったりすると頻繁にFatal errorがでて落ちてしまいます。
ちなみに、Virtualboxの3D Accelerationが有効になっていることは確認済です。
▼解析は正常終了
対処として、当方の環境ではWindows版で作図から境界条件のファイルまで作って、解析だけ仮想環境で実行する……という分担をすることにしました。
■ 物理環境に公式版をインストールする方法
物理環境へのインストール方法は、上述した仮想環境での手順と同じです。
仮想環境で発生した描画エラー(SIGSEGV)は、幸い物理環境では発生しませんでした。良かった。
空いてるPCがあるなら、Ubuntuを入れてSalome-meca専用機にすると一番確実に動作すると思います。
また、できるだけ解像度は高い方が良いです。私が今回Ubuntuを入れたPCは、解像度が低く(1366×768)、AsterStudyモジュールで全画面にすると領域外にはみ出し、見切れてしまって使いづらい……。
※ ちなみにその場合は、Windowsキーとドラッグで画面移動ができます。
▼ PCへUbuntuをインストールする手順は、別記事にまとめました。
初めてでも簡単に終わると思います。
さいごに
勉強以前に、インストールに苦労してヘトヘトになってしまいました。しかしこれで環境は作れたので、これから触って学習していこうと思います。
興味が湧いた方は、勉強がてら入れてみてはいかがでしょうか?
導入は面倒ですが、何より無償ですし面白そうです。
▼ Salome-mecaで片持ち梁を解析して、主応力方向の描画まで行ってみました。