材料力学で出てくる「モールの応力円」。
この記事では、その意味と書き方を解説します。
とりあえず、参考書を読む気になる事がゴール。超初心者向けです。
この記事の対象。導入で、つまずいた人
「導入から意味不明で詰まった人に、説明する」というコンセプトで書きました。
「モールの応力円」(組み合わせ応力の単元)って、個人的には理解にめちゃくちゃ苦労しました。
しばらくは、参考書の文字を追うのすらしんどいレベルでした。
同じような人に、「まぁ参考書を読んでやるか!」という気を起してもらえると嬉しいです。
勉強を進めていくと行列計算などが必要になりますが、あらましをなんとなくでも知っていれば抵抗が少なくなるのでは……と思います。
では早速。
モールの応力円とは?何に使うの? →便利な計算道具です
そもそもモールの応力円とは、何なのか。
ざっくり一言で言うと
「外力(かけた力)に対して内部でどういう力が発生したのか、が分かる便利な計算道具」です。
もう少し補足すると、断面の応力は角度の関数です。
なので見かけ上はまっすぐ引っ張っているだけでも、傾斜角度によって応力の大きさが変わってきます。
角度による応力の状態は、もちろん式を立てて数式で解くこともできます。
しかしモールの応力円を使うと、公式を暗記していなくても作図するだけで解けて、かつ見やすいのでとても便利です。
「モールの応力円をどういうタイミングで使うのか?」を2例挙げてみます。
細かい読み方は後で解説するので、ふ~んと眺める程度でOKです。
ねじられる棒
とりあえずこの図を見てください。
丸棒が、ねじられています。
どうなるでしょうか?
理論上は、こんな風に破断しました。
45°傾いた場所にクラックが入ります。
この場合、どこにどんな力が働いたのでしょうか?
そこで、「モールの応力円」の出番です。
この図によって、45°傾いた面で最大の垂直応力が働いてしまうんだな!と言う情報が得られます。
(見方は後述します)
「外力(かけた力)に対して、内部でどういう力が発生したのか」がわかります。
ややこしい公式を覚えなくても、この図をかけばビジュアルに数値を把握できるという訳です。
引っ張るとどうなる?
今度は、部材を引っ張ってみます。
いわゆる引張試験のように、両側から引っ張ります。
どんな力が発生するのでしょうか?
見かけ上は、まっすぐにしか力かけてないじゃん!と思いますよね。
でも内部には、分力が働いてそれもまた負荷となります。
理論的には引張っている力に加えて、45°傾いた面でもせん断応力が最大になります。
(どちらで破壊するかは、材料物性次第です)
これもモールの応力円で、簡単に把握することができます。
モールの応力円の書き方
モールの応力円が役立つタイミングは解ったとして、ではどう書くのでしょうか?
モールの応力円の書き方自体は、とても簡単です。
とりあえずはポンポンと機械的にプロットすればOKです。
では、試しに書いてみましょう。
例題
こんな応力状態のモノがあるとします。
X軸に引張り、そしてせん断応力が働いています。
これを、モールの応力円を書いてどんな応力が発生するか確かめてみます。
これを、モールの応力円にプロットしていきましょう!
その1.座標軸をかく
まず、座標軸を書きます。
横軸は垂直応力のσ(シグマ)、縦軸はせん断応力τ(タウ)です。
縦軸は、下側が+(プラス)になるようにして下さい。
あとあと楽です。
参考書によってまちまちで、ここが混乱ポイントだったりします。
2.ぽんぽんと点を置いていく
座標軸に、点を置いていきます。
例題で前提になっている応力は、下記の通りでしたね。
- σx=50Mpa
- σy=0
- τxy=30Mpa
これを、座標として点A、点Bに印をつけて下さい。
- 点Aの座標:(σx, τxy)
- 点Bの座標:(σy, -τxy)
3.円を書く
次に、点AとBの中点が、円の中心です。
円を書いて下さい。
はい、できあがりです!
次は、読み方です。
モールの応力円の読み方
このモールの応力円から、次の事項を読み取れます。
- 主応力面の角度
- 主応力の値
- 主せん断応力面の角度
- 主せん断応力の値
まとめて書くとこんな感じ
一つずつ説明していきます。
主応力面の(法線の)角度
主応力面とは「断面に対して垂直の応力のみが生じる面」です。
このとき、せん断応力はゼロになります。
(モールの応力円上でもそうなっています)
その法線(面に対して垂直な軸線)の角度をグラフから読み取れます。
見かけ上の負荷(例題の場合はσx=50Mpa)とは違う値になります。
- 点Aをスタート地点として、横軸のσ軸まで回転させて下さい。
反時計回りが正方向(プラス)です。
- グラフ上は2×θですので、実際の値は2で割ってください。
例えばモールの応力円グラフ上で50°だったら、応力図上では25°になります。
主応力の値
上記の通り、点Aをスタート地点として、横軸のσ軸まで回転させて下さい。
そこが、主応力です。
主応力には最大と最小があり、σ1およびσ2と呼ぶことが多いです。
主せん断応力面の(法線の) 角度
せん断応力の最大値は、「主せん断応力」と呼ばれます。
- 主せん断応力は、点Aから左回りに円の頂点まで回転したポイントです。
(主応力面に対して45°傾いた面になります。)
- グラフ上は2×θsですので、実際の値は2で割ってください。
主せん断応力の値
上記で求めた点が、主せん断応力です。
- これも最大値と最小値が存在しますが、最小値だからといって応力が存在しないわけではありません。絶対値で考えます。
せん断応力は一組で釣り合っているので、方向の問題です。 - +(プラス)は反時計回り、-(マイナス)は時計回りだと考えればOKです。
主せん断応力の向き
上記3.のように、点Aから反時計回りで到達したτの最大値(主せん断応力)の符号で、向きを判断できます。
例えば、この例題では「点Aから反時計回りに70度回転した軸で、負の値(-39.1Mpa)」だったので、
「点A反時計回りに70度回転した軸に対して、向きは右回り(時計回り)」だと判断できます。
せん断応力の矢印の方向が、元の例題の応力図と、最大せん断応力では逆になることに注意して下さい。
※モールの応力円で見れば、つじつまが合います。
応力図ではどうなる?
上記モールの応力円の状態を、応力図でも書いておきます。
すべて、計算無しにモールの応力円から求まりました。
※実際試験などでゼロから作図するなら、三平方の定理くらいは要ります。
今回は、めんどくさいのでCADで作図しました。
例題(再掲)
例題のモールの応力円(再掲)
主応力
元の座標から+25°(反時計回り)傾いた座標になります。
応力図上でも、反時計回りが+(プラス)です。
モールの応力円作図時にτ軸のプラス方向を下にしたので、応力図の座標と見た目が一致します。
主せん断応力
モールの応力円上で数値をすべて読み取れます。
せん断応力の矢印の方向が、最大せん断応力では逆になることに注意して下さい。
+(プラス)は反時計回り、-(マイナス)は時計回りだと考えればOKです。
三次元のモールの応力円では、何がわかる?
これまで紹介したモールの応力円は、一つの平面(x-y面)にのみ注目していました。
さらに三次元(3軸)のモールの応力円を描くと、最大せん断応力が発生する面と値を視覚的に把握できます。
最大せん断応力の作用面を探す
例えば、こんな応力状態があるとします。
値はσx=10、σy=5とします。
これを三次元のモールの応力円にするとこうなります。
円の役割は、下記の通りです。
- 右の小さい円:σ1とσ2(x-y面)についての円
- 左の小さい円:σ2とσ3(y-z面)についての円
- 一番大きな円:σ1とσ3(x-z面)についての円
そしてこの図から、以下の事がわかります。
- この例題(σ1>σ2>σ3)の場合、一番大きな円は、x-y面ではなく主応力σ1-σ3の面(x-z面)である
- σ1、σ3からθ=45°回転させると、せん断応力の法線になる
- 最大せん断応力の絶対値は5である。
- 主応力は、3つ存在する。σ1=10、σ2=5、σ3=0
結局どの向きになるの?
三次元で考えると分かりづらいかもしれません。
そこで、先の例題の最大のせん断応力の作用面を、模式的にCGで表してみました。
※ ズズズと滑っているような絵にしています。
σ1、およびσ3の軸から、それぞれ45°傾いた法線を持つ面、が最大せん断応力の作用面になっています。
他の例
▼ さらに、他の応力状態で応力円をかいてみるとこんな感じです。
主応力がσ1=-5 ,σ2=-10 , σ3=-15 になる応力状態だとします。
最大せん断応力の絶対値は、5((σ1-σ3)/2)になります。
最大、最小の垂直応力が生じている面を意識すると、最大せん断応力の作用面が容易に判断できると思います。
参考文献
- 日本機械学会. (2007). 第8章 複雑な応力. In JSMEテキストシリーズ 材料力学 (pp. 131-138).
- 竹園茂男, 垰克己, 感本広文, 稲村栄次郎. (2007). 第2章 基礎理論. In 弾性力学入門 (pp. 7-27). 森北出版.
- Goodno, B. J., & Gere, J. M. (2020). 2.6 Stress on Inclined Sections. In Mechanics of Materials, Enhanced, SI Edition (pp. 178-184). CENGAGE LEARNING.
- HIBBELER, R. C. (2017). 14.STRESS AND STRAIN TRANSFORMATION. In Statics and mechanics of materials in si units [Kindle version] (5 ed., p. 637). Pearson Education.
- ミズーリ工科大学 講義資料「Summer 2017 Sections 1A and 1MSUより(2017/7/7アクセス)
- イリノイ工科大学ARC(学生ワークショップ)資料[PDF]「Mohr’s Circle」(2017/7/7アクセス)
おすすめ書籍
私が読んでわかりやすいと思った本を、紹介します。
▼ 項目によっては説明が難しい箇所もある本ですが、モールの応力円に関しては導入から丁寧に書かれていました。
解説は日本語ですが、例題など一部分が英語です。でも簡潔なので辞書を引いたりweb翻訳にかければすぐに分かります。
▼ モールの応力円に関しては、こちらもとてもわかりやすかったです。
機械的にモールの応力円を書けるようになったら、次のステップとして読みたい本。
応力の考え方についても丁寧に書かれています。じっくり読めば小手先以上の考え方を頭に入れることが出来ます。
↓上記の本の新刊が出ました。
▼ 英語ですが、組み合わせ応力の説明が丁寧に解説が進む教科書があります。
本の紹介は下記の記事に書いたので、ぜひ検討してみて下さい。
カラフルで読みやすいです。
動画
引張とせん断応力、それぞれを例題にして説明動画を作ってみました。
7分以内の短い動画なので、よろしければご覧ください。
(注)音声入り。
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