「自分がリーダーやマネージャーとなり、企画から製作まですべて自分が仕切って、何かを製作する」
例えばあなたが機械設計の職に就いた初心者だとして、そんな状況を思い浮かべてみて下さい。
「初心者だからむり」
「もっと経験を積んでから、将来の機会を待つべき」と思われるのではないでしょうか?
私も最初はそう考えて粛々と日々の業務をこなしていましたが、なかなか担当以外の経験を詰む機会、そして「将来」は回ってこないんですよね。
読書での勉強だけでは、飽きてやる気を保つのが難しくなっていました。
もちろん、会社では、それは仕方ありません。(いきなり任されても立ち往生しますし……)
ただ、学校など会社以外の集まりでも、出来る人がたくさん周りにいて自分に自信がないと、どうしても関わることができない作業が発生します。
そこで、一人プロジェクトです。機会が無いなら、自分で設けてしまえば良いのです。
一人プロジェクトではあなたがリーダー。そしてマネージャーで、機械・電気・ソフトの技術担当者でもあります。
どんな小さなモノでも良いので、自分が学んでいる事をカタチにしてみませんか?
この記事では、一人で初めて何かを作る方へ向けて、企画から製作までの進め方を紹介します。
ひとりプロジェクトって?
この記事の「プロジェクト」は、ごく小規模で個人的な工作を挿しています。
量産や販売を勧めているわけでは全くありません。
目的は、学んでいる分野のアウトプットをすることにあります。完全に自己満足でよいのです。
たとえば、電気を学び始めたなら、
- マイコンボードを使ってモーターを動かしてみる
- LEDを一定の条件で光らせてみる
といったことでも、学び始めの初心者にとってはプロジェクトです。
誰に遠慮するでもなく、自分だけで何か計画して実行する……わくわくしませんか?
このブログでも折に触れて細かいプロジェクトに取り組んでいて、楽しんでますヨ。
何の役に立つの?
取り組む分野の技術的な知識と、段取り力が身に付きます。
まず、技術的な課題が出れば、当事者として本での勉強に身が入ります。
そして計画から設計、製作まで全ての工程を自分が行うので、自然に後工程のことを意識して進めるようになります。
その経験は、規模は小さくても実際の業務の延長線上にあり、必ず業務のスキル向上にもなるはずです。
🔻前置きはこれくらいにして、さっそく進め方を紹介してきます。
進捗は記録しておこう
これから始める各工程での作業内容は、作業した日の終わりに記録しておくことをお勧めします。
時間が経ち、次回作業時に進捗を忘れていると、思い出すのがしんどいからです。
作業中に調べた事、考えた事も記録しておくと、自分だけの貴重な資料になります。
▼ 私はクラウドのメモアプリに、日付と簡単なメモを取りながら進めていました。アプリだと画像も扱えるので、作業途中の写真を貼っておくのも良いですね。
アプリは、OnenoteやEvernoteをよく使っています。
構想
まずは、作るモノを具体化し、仕様をかっちり決めます。
冒頭で自己満足でOKと書きましたが、「プロジェクト」と名乗るからには、きっちり事前に計画した上で、進めていきます。
作りたいものがあると、すぐに図面を描いたり材料を加工したりして、手を動かしたくなるかもしれません。
しかしこの記事ではあなたはプロジェクトのリーダであり「マネージャー」でもあるので、まずは落ち着いて案を固めていきましょう。
案出し。自由に気ままに
何を作りましょうか?自由に考えてみて下さい。
一人でブレスト(アイデア出し)を開催して、案をどんどん出しましょう!
この段階では、現実感が無くても、構いません。
とにかく自分の好きなもの、興味の湧くことを挙げていきます。
アイデア出しの際は、マインドマップ(中心テーマからトピックを放射状に展開する図)を描くと思考が整理できるのでおすすめです。
↓下図は、XMind 8 というソフトをWindowsで使っている様子です。基本機能なら、無料で使えます。
参考になるサイト
- Project selector | Free coding games for kids | Raspberry Pi
ラズベリーパイ財団のサイトで、様々なプロジェクトの製作方法が見られます。
上部のメニューからは、分野や使うデバイス、技術で絞り込んで検索ができます。見ているだけでも楽しいです。小型PCのラズベリーパイを使うならぜひチェックして下さい。
- Arduino Blog
マイコンボード「Arduino」の開発元のblogです。Arduinoシリーズを使ったプロジェクトの例が紹介されています。
- Arduino projects
こちらはArudinoが運営しているコミュニティで、ユーザーが各自のプロジェクトを投稿するサイトです。上部メニューから条件を選んでソートできます。例えば、上部のメニューから”Most popular” を選ぶと、人気のある閲覧数が多いプロジェクトを見られます。
ちなみに、私も投稿したことがあります😄(→私のプロジェクト)
仕様を仮決めする
案出しが終わったら、どれか一つ、作るモノを決めて下さい。
現実的に考えて、危険が伴う物、明らかに自分の手に余るものは省いてください。
そして、その仕様を具体的に書き出します。
例えば、こんな感じです。
- 自動販売機のおもちゃ
- 大きさは、卓上に設置できるサイズ
- コインではなく、カードをかざすとお菓子が出てくる
この時点でしっくりこなければ、作る物を他の候補に変えてみて下さい。
何で制御する?
作るモノがざっくり決まったら、何を使って制御するか、方針を決めておきましょう。
- 単純に何か(LED、モーター等)をON/OFFしたいだけなら、スイッチ付きの電池ボックスでも事足ります。
- 何らかの条件に基づいた処理をさせたいなら、マイコンボードを使うとよいです。
初めて使うなら、Arduinoをお勧めします。ユーザーが多いので資料が豊富で、課題を解決しやすいです。
▼ ネットで購入できます。
予備実験
特殊な機構など、成立しないとプロジェクトが進まなくなるボトルネックがある場合は、簡単に予備実験を行って先に確認しておきましょう。
例えば自動販売機のおもちゃを作った際は、お菓子を押し出す仕組みが正常に動作するか不明だったので、ギアボックスだけ先に買って実験しました。
▼ タミヤのギヤボックスは、工作に欠かせない存在です。モーター単体だけだと減速機から設計が必要なので手間がかかりますが、ギアボックスがあると買ってすぐ出力を取り出せるので重宝します。(組立は必要です)
費用と入手性を確認しておく
プロジェクトの要となる部材があれば、真っ先に費用と入手性を確認しておきましょう。
設計が進んでから「うわっ、めっちゃ高価」「品薄で入手できない」「納期が長すぎる」なんてことが判明したらヤバイ。
先に調べておくと、代替品を探したり、先に発注しておいたりできます。
最終仕様を決める
構想の仕上げとして、最終仕様を決めます。
実現できるかどうか現時点では分からない項目があるかもしれませんが、指針として決めておいて下さい。
- 作品名
- 作品の概要
- 完成図
- 大きさ
- 電源
- 動作の流れ
なお、仕様は、自分が出せる力の半分以下で製作を進められるように設定したほうがよいです。
製作にはトラブルがつきものですから、最初からギリギリの攻めた内容だと、何か起きると詰んでしまいます。
例えば、理想では「部屋一杯の装置を作りたい」と思っていても、最初はとりあえず卓上模型にする……という感じです。大きいものは材料費がかかりますし、制作場所が手狭だと手に余ってしまいます。
これで、作るモノが決まりましたね。次の工程に移ります。
日程表を作る
次は、締め切りを設け、日程表を作ります。
「個人的な工作なのに?」と思われるかもしれませんが、締め切りが無いとグダグダになって完成が遠のいてしまいます。
ただ締め切りを設定するだけではモチベーションが上がらない場合は、ブログに記録するなど、イベントを設けても良いですね。
そして下図のように日程表を書き出すと、あまり設計にかけられる時間はそう多くない事に気づきます。
例えば、製作期間が3ヶ月あったとしても、設計検討にかけられるのは1か月ほどです。
しかも、装置ならば機械と電気とソフトの設計が必要ですから、テンポよく進めないと設定した納期に間に合わなくなってきます。
時間の制約が厳しいならば、仕様を変更するなど妥協点を考えてみて下さい。
こういった検討、判断を自分の意思のみで行えるのが、一人だけのプロジェクトの醍醐味です。
詳細設計
ここからは、具体的な検討に着手していきます。
- レイアウト
- システム構成を考える
- 回路を組む
- フローチャートを作る
- コーディング
- メカ部分の検討
まずは、レイアウト
もし使うツールを検討中なら、ぜひ3D CADを使ってください。
シンプルなものなら2D CADだけでも検討出来ますが、3D CADがあると実物を作る前に画面上で立体的に再現できます。形状を見たまま感覚的に把握できるので、設計が捗ります。
このソフトは、個人、非商用なら無料(2022/8/18時点)で使えます。
既に使うことが決まっている部品を、とりあえずぽんぽんと配置していきましょう!
配置するだけでも、空間の広さやカタチを現実的に把握できるようになります。
すると、「思ったより狭いんだな」「配線が干渉するかも」など具体的な課題が浮かんできますよ。
この時点では、メカ部分の詳細な寸法の検討は、保留にしておきます。
回路とソフトの設計が固まってから、取り掛かると良いです。
先に機械設計をガチガチに固めてしまうと、後でセンサーなど電子部品を取りつける場所がない、など手戻りが発生する可能性があります。
システム構成を考える
制御が必要な要素を書きだして、全体的なシステムの構成がわかる図を簡単に描きます。
例えば、こんな感じです。下図は以前作ったおもちゃの自販機のシステム構成で、ArduinoからブザーやモータをON/OFFする仕様でした。
この図を作ることで、制御について具体的に考える機会が生まれます。
回路を組む
使う電子部品を動かす為、回路を組んでいきます。
各要素には定石の回路があるので、完全にゼロから考えることは避けて、どんどん資料を参照したほうが良いです。
部品のデータシートに記載されている回路図や、電子工作の書籍、「トランジスタ技術」などの専門雑誌にならうと、大きな失敗を避けられます。
▼ Webで見られるArduinoのドキュメントも便利です。課題ごとに、回路図とコードが掲載されています。
私は電気、ソフトが不得手なので、もっぱら本を買い集めています。
▼ その中から電子回路に関するおすすめ本を記事の最後に挙げているので、是非ご覧ください。
制御のフローチャートを作る
構想時に考えておいた「動作の流れ」を基に、制御の流れを具体的に考えて、フローチャートを作ります。
動作の流れ | 制御のフロー |
---|---|
|
後でマイコンに書き込むプログラムを書く際の指針となります。
コーディング
先に作ったフローチャートを基に、マイコンに書き込むコードを書きます。
コードの書き方は、公式サイトに例がたくさん掲載されているので、参考になります。
いきなりすべての動作仕様を満たす本番コードを書くのではなく、まず要素ごとに確認コードを書いてテストしておくと、効率が良いです。
一気に複数の部材を繋ぐと、動作しない場合に原因の切り分けが大変だからです。
例えば、「フォトインタラプタへの入力によってモータへの通電を切り替える」回路だとします。
その場合、まず「フォトインタラプタを手動で遮光したら、LEDが光る」ようなコードを書いて、センサ単体の動作確認を行います。
▼ 下の写真(左)は、接続する要素を簡素化してプログラムの動作を確認している様子です。
実際の取付状態だと嵩張りますが、要素だけブレッドボードに集めると扱いやすくなります。
メカ部分の検討など
あとはメカ部分の詳細な検討や、電子部品の取付方法など細かい部分を詰めていきます。
検討した結果は、細かい事でもCAD上で図にしておくほうが良いです。
時間が経ったら、検討したことは多分、忘れてます。
▼ CADでメカ部分の検討を進める様子は、別記事で紹介しています。
材料手配
詳細設計まで済んだら、部品や材料の手配に移ります。
エクセルで一覧表にしてチェックといれると、漏れが出にくいです。
↓私がよくやる方法としては、こんな感じ
- まず、必要な部材をひたすらリストアップする
- あとでExcelのピボットテーブル機能で集計する(複数の部位で使う部材の数が合計される)
- 発注リストの出来上がり
加工
工具を使う際は、説明書をよく読んで、最大限の注意を払ってください。
手軽に使える電動ドリルでも巻き込まれたり、夢中で押えつけ過ぎて折れた刃が飛んできたりと、事故の種はどこにでも潜んでいます。
とりあえず、まずは保護メガネだけでも常備しておきましょう。
組立と動作確認~完成
一発で動くことは少ないので、動かなくても腐らず、根気強く課題を解決してください。
最初は厳密に仕様を満たさなくても、とにかく完成させることに注力すればOKです!
最終工程まで手を動かした、というだけでもスゴイことです。
さいごに
お疲れさまでした!
完成までに大変な労力がかかった事だと思います。
ひとまず完成を、祝いましょう!
もしかすると、思った事を実現できなかった……という方もおられるかもしれません。
失敗こそ貴重な経験なので、次の機会に活かせばOKです。
出来映えにかかわらず、手ずから何かを作るとその分野への当事者意識が生まれるので、教科書での勉強にも身が入ります。
座学が続かない人は、ぜひ一人だけのプロジェクトを画策してみて下さい😉
おすすめ本 ― 回路とプログラミングが初めての方へ
回路を組んだり、マイコンで制御するためのプログラムのコードを書いたりするのは、最初は勝手が分からず戸惑いますよね。
この記事で紹介したArduinoは手軽に使える素晴らしいマイコンボードですが、制御するためのコードを書いたり、Arduinoから先の回路は自分で組んだりする必要があります。
当初はそういった作業が難しく感じて困っていましたが、本を読みながら手を動かしていると、徐々に馴染んできました。
私が読んでいて、とてもわかりやすいと思った本や資料を紹介します。
Arduino
▲ Arduinoの概要や思想の説明に始まり、電子回路についての初歩の解説、そしてプログラム例までがコンパクトにまとまっています。
巻末には関数などのArduino公式リファレンスが付いているので、Arduinoに慣れた後もさっと見返すことができます。
出てくる回路は回路図ではなく、イラストでの配線図となっています。
これは回路図に慣れている人にとっては見辛いかもしれませんが、技術書に抵抗がある段階で読むと、とっつきやすいと感じました。
優しい語り口で、読み物として気軽に読み通せます。
▲ 「やりたいこと」からレシピを探せます。
「動きを検出する」「モーターを制御する」などたくさんの状況について、ブレッドボードへの配線図とサンプルコードが掲載されています。
平常時に目を通しておいて「Arduinoで、できる事」をうっすらインプットしておくと、困ったときに役立つと思います。
▲ Arduino本体と、抵抗やブレッドボードなどがそろったキットがあります。
本当に電子工作が初めての方は、キットや本を買って、チュートリアルをこなすと感覚的に腑に落ちると思います。同梱されているブレッドボードやジャンプワイヤーは、電子工作で日常的に使う物なので、ずっと役立ちます。
電気・電子回路
▲ 電子工作を始めた頃から、かなりお世話になっている本です。
私が持っているのは2007年の初版ですが、2021年に改訂新版が出ていて、Arduino、Raspberry Piなどが取り上げられています。
回路図や記号の読み方から始まり、LEDや抵抗、トランジスタなど基本的な部品の回路例、データシート上の値の意味などが解説されており、実践的な便覧として使えます。
この本で手を動かしながら電子回路に馴染むと、電気・電子回路の工学書を読むのに抵抗がなくなります。
作りながら都度勉強すると、確かに吸収は速いです。ただ予備知識がほとんどない状態だと、何かするたびに悩む状態になるので、頻繁に手が止まってしまいます。
そんなときは一旦立ち止まって、以下で紹介するような教科書で理論を勉強しておくと、ストレスが少なくなります。
▲ 電気回路の教科書です。すっきりしたレイアウトと解説で読みやすいです。
1、2章は直流回路、3章以降は交流回路と回路解析について収録されています。(詳しい目次や紙面のサンプルは、出版社のサイトで見られます)
1冊読み通す時間が取れなさそうなら、まずは直流回路の1、2章を勉強すれば手早く重要な法則や定理を学べます。内容はオームの法則から始まり、キルヒホッフの法則やブリッジ回路、テブナンの定理など重要な項目がまとまっています。解説だけではなく随所に例題も配置されているので、公式の活用方法が確認できて理解が進みます。
▲ 目次や内容見本のPDFが、出版社のサイト(こちら)で見られます。
回路の振る舞いが実験やイラストを使って解説されているので、教科書で勉強した事と繋がって理解が深まります。
オームの法則などのルールをおさらいできる「特別解説 絵とき! 電気の法則と科学」というコーナーも用意されています。私の知識が足りなくてわからない個所は、教科書と併読しました。
WEB
↑ 手前味噌ですが、私の記事を紹介します。Arduinoが初めての方向けに、こんな記事を書いています。
Arduinoと簡単な回路をブレッドボード上に配線して、動作確認をする方法を紹介しています。
▲ Arduinoの公式ドキュメント。
「最低限必要なコード」「配列の使用方法」などの課題ごとに回路図やコードが掲載されているチュートリアルです。
レイアウトもシンプルで見やすいです。