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触るとひんやり。スターリング冷凍機を作ってみた

電子工作など

スターリング冷凍機の模型を作って、実験してみました。結果は5分間で約8℃低下。
数字こそ地味ですが、冷却部を触るとひんやり冷たくて感動。楽しい実験でした。

今回の実験結果や方法、条件をまとめたので、一つの例として参考にして頂ければ幸いです。

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はじめに

かねてから「小規模でも熱サイクルを自分で作って、実験できたら楽しいだろうな」と考えていました。
このたび、やっと時間ができたので取り組んでみました。

今回作ったのは、「スターリング冷凍機」の模型です。
冷凍機はエンジンの逆で、動力を与えて熱を吸い取ります。

今回の実験は思い付きで始めたので、かなり製作に苦労しました。できるだけ詳しく記録を書いたので、同じようにハンドメイドで製作される方の参考になればうれしいです。

結果

動作の様子

動作の様子を、動画で記録しました。

結果

10分動かして、8~9℃低下(@室温26.7℃)という結果になりました。
厳密にいうと始めの5分で既に8℃は下がっていて、それ以降が鈍ってしまいました。

時間との推移は、下図をご覧ください。

スターリング冷凍機模型実験の結果
今は少しでも温度が下がっただけで面白くて満足ですが、結果を見るともっと数字を伸ばしたくなりますね。
冷却部の断熱向上(今はプチプチで包んで、チョコンと発泡スチロール被せてるだけ)や無効容積比などちゃんと考えないとだめそうです。
また気が向いたら改善しようと思います。
これ作るのに部屋を散らかしてしまったので、まずは掃除しなくては。

実験方法

今回の実験装置の説明をします。
手持ちの工作設備が貧弱なので、なるべく市販品や端材で済ませる方針で製作しました。

諸仕様

タイプは、α形(2つのパワーピストンを持つタイプ)[5][7]
膨張側の試験管先端が冷えます。

今回の実験装置の諸仕様はこんな感じです。

事前にすべて計算しました、というと恰好が付きますが違いますw
とりあえず入手できる部材をかき集めて出来上がった後で、計算してみました。

無効容積比の計算式は、参考文献 [6]を参照しました。

無効容積とは、ピストン(注射器のプランジャ)がこれ以上進まないポイント(上死点)での、ピストンを除く空間容積を指します[6]

スターリング冷凍機実験の諸条件
スターリング冷凍機実験の諸条件

全体写真

機構

スライダークランク機構で、モーターの回転をピストンの直進に変換しています。
今回のクランク半径は、R=11mmです。

スターリング冷凍機模型、クランクのアニメ

使ったモーター

モーターは、タミヤの「No.2 ハイスピードギヤーボックス」を使いました。
減速比は18:1、回転数は3Vで約581rpmです。

タミヤには他にも色々なギアボックスがありますが、これより速いタイプだとトルク不足、遅いものだとサイクルが稼げず温度がなかなか下がらない……という感じでした。

両側が回るので、クランク構造が格段に楽に構築できます。

ちなみに、付属のクランクアームだと90度の位相ずらしができません。(アーム取付方向が両側とも同一のため)
そこで、下記のセットに付属のアームを使いました。

ピストンの推移

サイクル過程での、ピストン位置の移り変わりをグラフにしました。
グラフは、ピストンの先端だと思ってください。
見ての通り、位相は90度ずれています。

スターリング冷凍サイクルにおける、ピストン先端位置の移り変わり

圧縮部

圧縮側は、何も加工をしていません。
ガラスの注射器(10cc)をそのまま使っています。

スターリング冷凍機に使った注射器

注射器を使うのは、参考文献[5]から学びました。 ガラスの注射器はすり合わせが上等で摩擦が小さく、ピストン&シリンダとしてはぴったりなんですね。

注射器は、普通にネットで買えます。

私はモノタロウでVAN(翼工業) の10ccを買いました。

膨張部(冷たくなる側)

試験管と注射器を切断して、金属のカラー(円筒部品)で連結しています。
試験管と注射器を金属カラーで連結する構造は、参考文献[5]を参考にしました。

金属のカラーにはM3タップ穴を設け、そこにチューブ用の継手(M3締結)を取付ています。

ガラスの注射器と試験管を金属管で連結

断面をみると、こうなっています。

スターリング冷凍機膨張側ユニットの構造

買ったもの

試験管はamazonで買いました。

注射器はモノタロウでVAN(翼工業) の10ccを買いました。

金属カラーはミスミで買いました。
チューブ用の継手を付ける為、タップ加工を追加しています。

ミスミを使えない場合は、金属パイプを自分で切断してタップ加工すると良いかもです。
内径は、注射器シリンジをノギスで0.1mm単位で実測して大き目のモノを買ってください。
大きいと隙間はパテで埋められるけど、逆は旋盤が無いとしんどいので。

温度測定:K熱電対とマルチメーター

温度の測定には、K熱電対とマルチメーターを使いました。

秋月電子で買ったんですが、手ごろな価格です。温度だけではなく電圧、電流など一通りの電気系測定ができて良い買い物でした。

マルチメーターには熱電対が付属されていますが、少し接点が大きくて試験管に貼りづらいので別途小さめのモノを買いました。

スターリング冷凍機の原理

「モーターでガシガシ動かすだけで何故温度が下がるのか?」が気になりますよね。
今回の実験は、スターリングサイクルを逆に回し、冷凍機/ヒートポンプとして動作させています。

まず、スターリングサイクルって何?

スターリングサイクルは、熱機関の一種です。
熱機関とは熱を仕事に変える仕組みで、内燃機関(クルマのガソリンエンジンとか)でおなじみですね。ちなみに、スターリングサイクルは外燃機関です。

歴史などは、wikipediaにまとまっているので興味あればご覧ください。

スターリングエンジン - Wikipedia

▼ 別記事にて、スターリングエンジンを例として熱サイクルについて解説しています。

熱機関?サイクル?まずは模型と見比べると現実感が湧くよ
熱力学。勉強のとっかかりに苦労している人に、なんとなくサイクルを感じて頂くべく、模型を動かしつつざっくりと説明してみました。

サイクルの過程

さて、スターリングサイクルを熱機関(エンジン)として動かすと、図1.のような過程をたどります[1][2][3][7]
なお、動作にはヒーターなどの熱源が必要です。例えばガソリンエンジンなら燃料のガソリンを燃焼させるのと同じです。

ざっくり簡単に、スターリングサイクルの説明図を描いてみました。
厳密にいうと供給熱量や冷却熱量は再生器の条件で変わりますが、イメージ優先で省いています。

▼ 図1.

反時計回りで、冷凍サイクルに

ここで、スターリングサイクルは逆サイクルが成り立ちます。反時計回りにサイクルをたどると冷凍サイクルになります[4]
ざっくり簡単に、図2.に逆サイクルの説明図を描いてみました。

▼ 図2.

逆サイクルとして動かすには、外部から仕事を与えてやらねばなりません。
今回の実験に置き換えると、モーターがそれに当たります。

そうするとサイクルが逆に回り、熱機関として動作させていた際に加熱していた部分が冷えるようになります。

製作で苦労した事

初めて取り組んだこともあり、加工がかなり大変でした。

実際に製作してみて初めて分かったこと、苦労したことを書いておきます。

連結箇所は、空気の密閉を厳重に

膨張部は、試験管と注射器のシリンジを金属のカラー(円筒部品)で連結しています。
ここは気合を入れて、ガッチリと密閉せねばなりません。

最初は何を思ったか、なんとセロテープでつないでいました。
当然空気がスカスカ漏れます。ぐるぐる巻きにしていて漏れてないように思えても、漏れています。
当然、逆サイクルどころではなく延々と温度が下がらないのを見続けていました……。

現合で加工しながらピッタリを狙う……というのは(私の設備上)加工困難なので、筒の内径を大き目にしてすきまを埋める方針にしました。
今回は、注射器シリンジと金属のカラーの内径とは、片側0.2mm前後の隙間が出来てしまってます。

隙間を埋めるのには、風呂場用のシール材(パテ)を使いました。
あまりガバガバだと軸心が狂いますから、注意して下さい。

風呂場用のシール材でを塗ってから24時間放置しました。ちょっと塗りすぎたかな?

このシール材「セメダイン バスコークN」を使いました。

硬質ガラスの切断

一番の山場は、注射器や試験管の切断でした。
なんせ硬質ガラスですし、切りにくそうだし、どしようかと。

私はルーターにダイアモンドカッターを付けて切断しました。

回転工具を使うので、危険が伴います。保護メガネやフェイスシールド、マスクをつけ、安全第一で作業して下さい。

ガラスの粉が飛び散るので、外で作業しました。水をかけながら切断したので、念のためルータをラップで包んで保護しています。

ルーターはこれを使いました。
小さくて軽く、取り回しが楽です。それにコードレスなので、外で作業するのも便利です。

ダイアモンドカッターはこれを使いました。

カット後は、切り口が危ないので耐水ペーパーで削ります。#100→#320→#600を使いました。水に濡らして、断面をグルグルと押し当てます。

耐水ペーパーはホームセンターでも普通に売ってますし、ネットでも入手できます。

構造物はタミヤをフル活用セヨ

クランクシャフトなど、構造物はほとんどタミヤのユニバーサルを使っています。
ABSなので加工も容易で、とにかく早く動かして動作をみたい!という場合にストレスが少ないです。

参考文献

参考文献一覧

  1. 7.7 スターリングサイクル. (2001). 丸茂榮佑, 木本恭司, 機械系教科書シリーズ 工業熱力学 (pp.103-106). コロナ社.
  2. 小林恒和. (1997). わかりやすい機械教室 熱力学考え方解き方. 東京電機大学出版局.
  3. 3.1.6 スターリングサイクル. (2009). 濱口和洋, 戸田富士夫, 平田宏一, 模型づくりで学ぶスターリングエンジン (pp.43-45). オーム社.
  4. 3.1.7 正サイクルと逆サイクル. 同上, 模型づくりで学ぶスターリングエンジン (pp.45-46). オーム社.
  5. 付1.2 α型スターリングエンジン. 同上, 模型づくりで学ぶスターリングエンジン (pp.142-144). オーム社.
  6. 5.3 設計計算例. 同上, 模型づくりで学ぶスターリングエンジン (pp.98). オーム社.
  7. Wikipedia. Stirling engine – Wikipedia. 参照日: 2019年5月16日, 参照先: https://en.wikipedia.org/wiki/Stirling_engine

おすすめ本

今回の工作が実現できたのは、この本に出会ったことが大きいです。
書名の通りエンジン模型を作るためのマニュアル。

模型作りについては、かなり具体的に解説されているのがうれしい。
市販の試験管や注射器を流用するなど、なるべく一般的に入手・実現しやすいように配慮されています。
但し旋盤加工を前提にしている箇所もあるので、設備が無いなら構造を変える、市販品で賄うなどの工夫は必要です。

エンジンの仕組や計算の解説もされているので、理論もばっちり押さえられます。

熱力学の教科書です。
スターリングサイクルについて割と詳しめに解説されていて、勉強になりました。
スターリングサイクルでのガスのやりとりが、しっかり順を追って説明されています。

さいごに

空気が漏れたり、動作中にクランク機構周りの部品がぶっ壊れて四散したり……細かい不具合が山盛りでしんどかったです。
でも手ずから何か作って実験すると、やっぱ楽しいです。
今回は、「とりあえず動く実験環境をこしらえる」ところまでで気力・時間切れになってしまいました。
次回チャレンジするなら、もっと冷却できるように改善したいです。

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