『続・実際の設計』(日刊工業新聞社)に改訂新版が出たので、読んでみました。
旧版と比較すると、立ち位置が上流工程視点に変わった印象です。
どんな本? まずは旧版を語らせて下さい
今回紹介する本は25年前に発行された旧版の、改訂新版です。
ここで、旧版について少し語らせて下さい。
旧版は私にとっては機械設計の教典。
機械設計の仕事に就いた当初に旧版に出会いました。
独学でてさぐり・場当たりの実務に追われていましたが、この本で大局的に機械設計という仕事を認識できました。
シリーズになっているので加工や生産システムなど種々のテーマが発刊されていますが、機械設計の教科書としては下記2冊で一組になっています。
- 『実際の設計』(日刊工業新聞社、1988年)
- 『続・実際の設計』(日刊工業新聞社、1992年)
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前者の『実際の設計』は設計の上流工程で仕様を具現化するプロセス。
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後者の『続・実際の設計』は下流工程で詳細設計を進めて行くための知識が解説されていました。
そして時を経て新版が出た
そして20年以上の時を経て最近、この2冊の改訂新版が出来。
『実際の設計(改訂新版)』は2014年に。
『続・実際の設計(改訂新版)』は2017年に発行されました。
今回は『続・実際の設計(改訂新版)』を読みましたので、こちらの感想を書きます。
新版と旧版の比較
新版も旧版同様、下流工程で詳細設計を進める際に役立つ本です。
ただ、スタンスが少し旧版とは違って見えました。
旧版は機械要素の寸法表等のJIS抜粋データが沢山掲載されており、教科書として読みつつも、便覧のように使う本でした。
私はピラピラと付箋を付けて机に置いていた覚えがあります。
新版にはそういったデータは割愛されていて、その分解説が増えて教科書らしくなった印象です。
これは、副題と前書で方針が示されています。
旧版:「機械設計に必要な知識とデータ」
新版:「機械設計に必要な知識とモデル」
情報環境の発達により,データは「いつでも・どこでも・だれでも」容易に入手可能になっているからである.そのような状況の中で設計者に求められているのは,利用可能な状態で自分の頭の中にモデルを持っていることであるということに気付き,本書の副題を「機械設計に必要な知識とモデル」に改めるとともに内容を作り替えることとした.
畑村洋太郎/実際の設計研究会『続・実際の設計(改訂新版)』(日刊工業新聞社、2017年) はじめにより引用
たしかに、新版が出るまでに仕事環境は劇的に変わりました。
ネットが発達してJISも無料で閲覧できますし、各メーカーの電子データやカタログもすぐにダウンロードができます。
でも一冊まとまったものが印刷物として手元にあると使い勝手が良いので、そこは少し残念に思いました。
さて、具体的に大きく変わった項目はこんな感じです。
「製図法」、「寸法」が消えた
旧版では「寸法」、「製図法」という章が設けられていましたが、新版からは割愛されました。
(※「寸法」については『実際の設計』の方に旧版と全く同一ではありませんが章は設けられています)
どんな内容だったかというと、
- 「寸法」では、はめあいや表面粗さの具体例や、適用する許容差の例などが載ってた。
- 「製図法」では、各種図面の用途や製図ルールが解説されていた。
私が冒頭で「立ち位置が上流視点に変わった印象」と書いたのは、これらが無くなったことが理由です。
上流設計で仕様の定義をする側なら、知識として必要とはいえ自ら細かく手を動かす機会は少ないので「寸法」、「製図法」は不要かもしれませんが・・・
私が仕事に就いた当初は下流工程での詳細設計だったので、旧版では頻繁に読んだページでした。不勘合はめあい公差の目安表とか便利だったんですけどね。
いくらCADやネットが発達したとはいえ、現状無料で見られるのは便覧やカタログくらいです。知識ゼロでは便覧も謎のままですし、有識者の解説をちゃんと紙上で読みたいと個人的には思います。
エレキ・ソフト関連の解説が増えた
そして代わりに増えたのがこちら。
- エレクトロニクス
- システムとソフトウェア
- メカトロニクスの実践
この改訂は、私にとってうれしいものでした。
いきなり専門書では難しすぎて眠くなり、他人事に終わってしまいそうです。
でも本書では機械設計技術者の視点から解説がなされているので、当事者意識を持って読めました。
ソフトやエレキはどうも苦手意識がありますが、概念を俯瞰できます。
担当技術者に要望を伝えたり、話を理解するのに役立ちそうです。
さいごに ― 旧版を持っていてもオススメ
私は旧版を揃えていますが、今回の新版で勉強出来る事もありました。
個人的には改訂で不便に思う事もありましたが、逆に言うと大幅に内容に切り込んでいるということなので、お得感がありました。
もちろん初めての人にも、オススメです。
冒頭でも書きましたが、仕事に就いたばかりで仕事が細切れ・手さぐり状態で立ち位置が分からなくなっているなら、この本で大局的に機械設計という仕事を認識できる筈です。
小手先のTips集というよりは、大きな考え方を教えてくれる先生のような本です。